癒し手独神と英傑達 マサカドサマ編2(裏人格ver)





夜、琉生は自室で一人緊張していた。

マサカドサマの手当てを受け、触れ合った後

今夜、部屋へ行ってもいいかと問われていたからだ。

添い寝をしてくれるのかと甘い考えが浮かび、恥ずかしげもなく頷いた。

けれど、今になって、待ちわびると同時に変に強張っていた。

いっそ、先に布団に入ってまどろんで緊張を消そうかと思ったが

その前に、襖が開かれていた。



「将軍、まだ起きていたか」

戦闘用の軍服ではなく、楽そうな寝具を着ているマサカドサマが部屋へ入る。

雰囲気が柔らかくなったようだが、マサカドサマが隣へ座ると強張りはさらに増した。

「じゃ、じゃあそろそろ眠ろうか」

早口で言い、布団に寝転がる。

掛布団を取ろうとしたが、マサカドサマの下になって取れない。



「このまま共に眠るのも良い。だが、薄々気付いているのではないのか?

俺がそれだけの目的で来たのではないことを」

マサカドサマが主の傍らに手をつき、退路を塞ぐ。

夜に寝室に来るというのは、何となく、眠るだけで終わらないのかもしれないと思っていたが

具体的なことは考え付かなくて、ただ変に緊張していた。



「・・・何か、したいことって・・・」

マサカドサマの指が、いつかのように髪をすく。

見下ろされているだけでも思うことがあるのに、触れられると不明瞭な感覚が浮かぶ。

「今更尋ねるのも無粋と言うもの。その前に、相手を変えねばな」

ふいにマサカドサマが抜刀し、琉生は目を見開く。

止める間もなく、マサカドサマは自分の腕を切っていた。

鮮血が、腕を、指を伝っていく。

その血は指先から垂れ、琉生の口元に落ちていた。





瞬間、瞳孔が開く。

濃い血の匂いを嗅いだとたんに、琉生は入れ替わっていた。

『どういうつもりだ。以前に、役割は違うと言ったはずだ』

「戦い専門であるとわかってはいる。だが、こちらの将軍とも接してみたいのだ」

身の危険を察知し、琉生の背から黒い魔獣が現れる。

太い腕は、瞬時にマサカドサマを払いのけていた。

琉生は立ち上がり、警戒心を持って相手を見据える。



『馬鹿なことを言うな。本来ならば、戦闘時以外に出る理由などない』

「では、以前にその血を手向けてくれたことは渇望への情けか」

琉生は、マサカドサマと視線を合わせたまま黙る。

血を与えたのは情けか、戯れか、気まぐれか、自分でも考えているようだ。



マサカドサマは、ゆっくりと琉生に歩み寄る。

そして、ひざまづいて頭を下げた。

「将軍、どうか俺に許しを貰えぬか。その身に触れることの許しを」

琉生は、黙ったままマサカドサマを見下げる。

黒い魔獣は、まだ相手を攻撃しない。



『・・・途中で、お前を切り裂かないとは限らない。危険を察知すれば、容赦はしない』

「手をかけられる相手が将軍ならば本望よ」

マサカドサマが頭を上げ、琉生と視線を交わらせる。

迷いのない真っ直ぐな目は、血を欲しているときと同じ。

恐怖を凌駕するほどの感情を向けられていると実感する。

真っ向から向き合って来るその視線に、どうにも弱かった。



『・・・どうかしているな、お互いに』

琉生は、マサカドサマの前に腰を下ろす。

『あまり酷いことはするなよ、体は一つしかないからな』

「将軍・・・感謝する」

了承すると、マサカドサマは琉生の肩を押して仰向けにさせる。

琉生が覚悟して目を閉じると、唇が重ねられていた。



触れる個所が口と言うだけで、不思議と自分の鼓動が強くなる。

意味合いが違うからだろうか。

今の行為は、まるでその先のもっと深い意味を持っているような。

そう思ってしまうと、鼓動は収まりがつかなくなるようだ。





数秒重なった後、わずかに離れる。

それだけではとても足りないと、そう言うように息つく間もなく再び塞がれた。

今度は、ただ触れるだけではなく違う感触を与える。

マサカドサマは舌を出し、琉生の唇を割っていた。



『ん・・・っ・・・』

同じような柔らかさがあっても異なる感触に、琉生は不思議に思う。

性急に求めることはせず、ゆったりと舌が絡まる。

羞恥を感じていることは確かだが、嫌な感覚ではなくて

押し返すこともせず、そのまま身を委ねる。

柔いもの同士が触れ、液が混じり合う。

心臓の鼓動ははっきりと強まってゆき、高揚感を示していた。



マサカドサマが離れ、琉生は無意識の内にごくりと唾を飲む。

眼下の相手の喉が鳴ったとき、自分の唾液が交わったことを目の当たりにして

マサカドサマは、理性のたがが外れかけていた。



『艶めかしい感触だ・・・』

「ああ、こちらも中々良いものかもしれんぞ」

マサカドサマは、琉生の耳元へふっと吐息をかけ、耳朶に唇を触れさせた。

違う部分への刺激に、琉生の肩がぴくりと動く。

僅かに反応があったのをいいことに、マサカドサマは耳朶を軽く食んだ。



その時点では、琉生は特に声も発さない。

だが、唇が数回触れた後、舌先が、つうっと外側の形をなぞった。

『っ・・・』

ふいに声が出そうになり、琉生は喉元を閉じるようにして堪える。

マサカドサマはそれだけでは飽き足らず、舌の動きは止まらない。

耳朶からじっくりとねぶり、耳の全体を濡らしていく。

感じるものが強くなり、琉生は息を吐いて声を抑えていた。



「将軍よ、感じるままに声を発してくれてもよいのだぞ?」

耳元で囁かれ、琉生は一瞬だけ背筋に寒気を覚える。

抵抗されず、マサカドサマは琉生の内側へも舌を差し入れた。

『っ、ぅ』

さらに刺激され、琉生はとっさに口をつぐむ。

その反応をよしとしたのか、柔く湿った感触は中へ進んで行く。



『ぐ・・・』

反応を抑え込むよう、琉生は奥歯を噛み締める。

激しくはなくても、弱い部分を確実に攻められているようで

与えられる温度が、徐々に頬以外の箇所へも伝わるようになっていた。





中も外も濡らしたところで、マサカドサマは舌を抜く。

やっと刺激がなくなり、琉生は息を吐いた。

この姿の琉生が、行為を進めても跳ね除けようとしない。

それだけでも、マサカドサマには戦闘時とは別の高揚感が湧き上がっていた。



休む間も与えず、マサカドサマは琉生の腰紐を解く。

一枚物の寝具はそれだけではだけ、体の前面は完全に露わになった。

無防備な状態になり、琉生は思わず顔を背ける。



「正直に言うと、ここまで許されるとは思っていなかった」

『・・・お前が、そんな目で見るからだ』

その気になれば、すぐにでも首を刎ねられる。

そんな危険性がある相手を、なぜそんな熱視線を向けるのか。

畏怖の感情以外のものを受け止めることに慣れていない。

それは、跳ね除けるほど嫌悪するものではなくて、未だにマサカドサマを傷付けないでいた。



「ここから先、将軍がどんな反応をするか・・・」

広い掌が、露わになった素肌へ触れる。

そして、腹部から胸部にかけてゆったりと撫でていた。

マサカドサマの行動の一つ一つが、ある一点を昂らせる要因になる。

体を隠すものがない今、はっきりとわかってしまう。

マサカドサマの手は体をなぞり、下方へ向かっていた。



今更、抵抗したり、悪あがきしたりする気はない。

ただ、堂々と晒していることが躊躇われて、足を曲げ、体をよじり隠そうとする。

そんな動作は、相手を煽ることにしかならないとは思わずに。

「そろそろ、もどかしくなってきてはいないか」

掌は下腹部を通り過ぎ、太股へ添えられる。



『う・・・』

近くに触れられると、言われたとおりもどかしさが増す。

本能は、すでに望んでしまっている。

その掌で、包み込んでほしいということを。



琉生は、欲求に正直になるよう姿勢を戻す。

再び露わになったその物を、マサカドサマは包み込んでいた。

『あ、っ・・・』

一瞬だけ声が出て、琉生はとっさに唇を?む。

どくん、と下腹部よりさらに下方にあるものが、脈動する。

あられもない箇所を掴まれ、強い感覚が脳を支配しようとしていた。

マサカドサマの掌が上下に動かされ、琉生は歯を食いしばる。

その個所から刺激が全身へ伝わるようで、みっともない声が出ないよう抑えつけていた。



「ここまで来て堪え続けるか」

琉生は何も答えない。

少しでも声を出してしまえば、もう留められなくなる。

「そこまで頑ななら、俺にも考えがある」

マサカドサマは、ふいに琉生のものの全体を強く握る。

『っ、あ・・・!』

急に刺激が増して、再び一瞬だけ声が上ずる。

そのとき、琉生が閉口する前に、マサカドサマは自らの指を押し入れていた。



『ぐ・・・』

二本の指に妨害され、とたんに口を閉じることができなくなる。

指の腹が、舌の表面をゆったりと撫でていく。

いやらしさを感じつつも、緩やかな動作に体がほだされるようだ。

抵抗しない様子を見て、マサカドサマは下肢のものも同じように愛撫する。

指の腹で緩やかに、じっくりと愉しむように。



『ぐ、う、ぅ・・・』

口を閉じたいのに、声を押し留めることができない。

出そうと思って出しているわけではない、くぐもった声が発されてしまう。

琉生が自分の手に擦られ、喘いでいることを目の当たりにすると

マサカドサマも奮い立ち、再び強めに握り込んでいた。



『うぅ・・・!』

指があるにも関わらず、主は反射的に口を閉じようとする。

そのとき、犬歯が皮膚にひっかかり傷を作っていた。

出血したと感じ、マサカドサマは指を抜く。

琉生は息を吐き、濡れた指に赤い滴が混じる指を直視していた。





『・・・すまない、治療するか』

「いや、このままでよい」

治療のために琉生が変わらないうちに、マサカドサマはもう一度主の口内へ指を入れる。

琉生が驚くさなか、その傷口を舌へ押し付けていた。



『ん・・・!』

舌に、じわりと血の味が広がっていく。

琉生が眉をひそめる一方で、マサカドサマは薄ら笑いを浮かべていた。

以前は、自分が主の血を舐めていたが今度は逆だ。

これで、お互いの血が交わり合った、そう思うと口端を上げずにはいられなかった。



今は、血意外に欲しいものがある。

それを早く己のものとし、その瞳に自分しか映らないようにしてしまいたい。

下肢を包む手の動きは、もう止まらなかった。

『っ・・・う、ぁ・・・もう、体が熱い・・・っ』

全体を愛撫され、単純な動作でも欲は溜まっていく。

往復されるたびにその個所は強く脈打ち、刺激をせがむ。

その機会を見計らったかのように、掌はつのりつのった欲情を絞り出すよう握り込んだ。



『う、あ・・・っ・・・は、あぁ・・・!』

マサカドサマの指を含んだまま、琉生は果てる。

かっと熱くなった下肢から溢れ出る白濁を止められない。

それは掌に放出され、粘液質な感触を与えていた。

白濁がおさまると、マサカドサマは口から指を抜く。

そして、傷の部分を濡らす液体ごと自分でも弄っていた。



『何を、して・・・』

唾液で濡れた指を弄る様子を直視すると、今の琉生でも流石に戸惑いを覚える。

それだけでなく、マサカドサマは下肢を覆っていた手も口元へ持ってゆき、同じように体液を舐め取っていた。

決していい味わいではないものを、マサカドサマは平然と口にしている。

自分の精が相手に交わっている様子を、琉生は凝視していた。



「お互いに血は交えた。後は、俺と精を紡げば将軍の体は俺を忘れられなくなるな・・・」

猟奇的な目に見据えられ、琉生はぎくりとする。

先に飲んだ血を、美味いとは思わなかったが吐き出そうともしなかった。

心の内では、望んでいるのかもしれない。

マサカドサマと交わり、通い合うことを。



『・・・やってみるといい、お前の気が済むまで』

ふい、と顔を背けて呼びかける。

この先の事をして自分がどんな感覚を覚えるのか、単純な興味本位だ。

戦いしか知らないはずだったこの身は、感じてしまっていた。



それだけの理由に違いないのだけれど、相手を直視したまま言うことができないでいた。

「将軍から許しを得られるとは、これほど喜ばしいことはない。必ずや、体の芯まで感じるような熱を、最奥へと届けよう・・・」

マサカドサマは、卑猥な感触を残す手を琉生の下方へ伸ばしていった。







朝になり、琉生はぼんやりと目を開ける。

昨日、何だかとても疲弊することをした気がした。

けれど、寝具はちゃんと身に着けていて、夢だったのかと疑う。



「目が覚めたか」

背後でマサカドサマの声がして、くるりと反転する。

座っている相手を見上げると、いつものように指が髪をすいた。

「体調はどうだ、痛むところはないか」

「ん・・・別に、ない」

ゆっくり起き上がると、ぼやけていた思考がはっきりとしてくる。

けれど、いつの間に寝たのか思い出せない。



「その様子だと、覚えていないようだな」

「何を・・・?」

問われたが、マサカドサマは答えない。



「さあ、今日も悪霊狩りに行くとしよう。だが、無理についてくることはないぞ」

「・・・行く。マサカドサマが戦っているところ、見ていられるようにしたい」

悪霊討伐を、断固として断っていた日が嘘のようだ。

「辛くなれば退避していればよい。将軍の御身は一つしかないこと、忘れぬようにすることだ」

優しい気遣いの言葉に、主は自然と微笑む。

地獄絵図にも慣れてしまえば、この相手の傍にいられる時が長くなる、そんなことを考えてしまう。

首狩りが好きな戦闘狂、それでも、自分の視線はマサカドサマを追うようになっていた。